Carlos Moscardini「el corazón manda」(1997年)
espa musicの世界のギターコレクション・シリーズの第14集(1997年発売)、全17曲中、11曲の自作曲と、他にE. Gismonti、F. De Caro、 R. Carnota、A. Yupanqui、H. Merlo、A. Piazzollaを収録。Gismontiの曲「7 anéis」以外には曲ごとにアルゼンチン音楽の様式が併記されています。ケーナとコントラバスが1曲ずつ加わっていますが、他はモスカルディーニのクラシカルギター1本の音世界です。全体には繊細で伝統をしっかりと受け継ぎながらもコンテンポラリーなアプローチが詰まったフォルクローレ音楽に浸る事ができます。
モスカルディーニは1959年ブエノス・アイレス生まれのギターリストであり作曲家。実際に会ったり、生音を聞いた事はありませんが、僕の最も好きな音楽家の一人です。とにかくオリジナル曲が美しい。魅力に溢れたメロディーと自在にコントロールされたギターの音色、ギターならではのサウンド造りもとても参考になります。出だしのDoña Carmenはとても美しいワルツ、そして僕もギターソロでよく演奏する曲です。
全17曲のうち、タンゴが3曲入っています。他のフォルクローレの曲と混じって一体感を与えます。最近クラシックギター奏者がアルゼンチンタンゴを取り上げる事が多いように思いますが、間の取り方や、音色の尖らせ方(丸ませ方)、サウンドの動きが全然違います(何処が違うのか上手く言えませんが)。アクセントが付いていてもキツくなくて、自由で、あるべき音に聞こえるんですね。Juanjo DominguezやAnibal Ariasなどのタンゴの名手も好きでよく聞きましたが、フォルクローレ色の強いモスカルディーニのタンゴが僕は好きです。モスカルディーニのCDはいつでも何処でも手に入るという訳にはいきませんが、YouTubeでモスカルディーニ本人が素敵なオリジナル曲やタンゴを紹介する映像があり、こちらもお奨めです。
http://www.youtube.com/watch?v=PCFrxy77VhE
Carlos Moscardini「Horizonte Infinito」(2009年)
Buenos Airesで2008年10月に録音、2009年9月にドイツのWinter&Winterレーベルから発売された。全20曲。内5曲でLuciana Jurryが唄で参加(2, 5, 9, 14, 19)しています。唄の(5)(19)以外はすべてMoscardiniの曲です。「El Corazón Manda」(1997年)と7曲、曲目がかぶっていますが、演奏が違い、アレンジは勿論、音色の違いも興味深いです。「El Corazón Manda」では1曲目だった「Doña Carmen」が、このアルバムではラストをしっとりと締めくくります。個人的にはこの「Horizonte Infinito」の方が、アルバム全体に統一感があるのと、音の味わいが更に深まっていて好きです。さらにLuciana Jurryの唄が情感を溢れさせながらも何ともしっとりと、しかししっかりと耳に届き、それをハデでないものの色彩感を倍加させるかのような効果的なMoscardiniの伴奏が光る、5曲がアルバム全体に散らばっており、よいアクセントを与えています。
またこのアルバムの特徴はアルゼンチン・パンパを舞台としたイラストレーター”Eleodoro Marenco”と”Florencio Molina Campos”の二人に捧げた小組曲がそれぞれ一つずつ収録されています。インターネットでこの二人の名前で画像検索すると、印象的なパンパを舞台とした馬やガウチョ、の姿が現れます。これらの画像を見ながら曲を聴くのもいいですね。草原を渡る風、馬とともに暮らす人々、ギターを囲んで踊る人々。様々な情景と音楽が結び付いて行くような気がします。アルバムのジャケットもとても手が込んでいます。紙製の質感のよいカバー、ブックレットにはオーストリア生まれミュンヘン在住のGünter Matteiのイラストがふんだんに使われていて、そこからもパンパのにおいが立ち上りそうです。まだ見た事のないパンパの情景に想いを馳せながら何度も聞き返しています。
01.Camino De Las
Tropas
02.Huella Perdida
03.Corazon Manda
04.Campo Huergo
05.Cuando El Amor Se Aproxima
06.Temperley
07.Milonga De Un Entrevero
08.Los Tilingos
09.Agua De Una Gota
10.Al Caer La Tarde
11.Viejo Estilo
12.Arreo
13.Horizonte Infinito
14.Si La Cantan Los Que Cantan
15.Aguas Y Penas
16.Payada De Contrapunto
17.Despuntando El Vicio
18.Gato
19.Sueno
20.Doña Carmen
Carlos Moscardini「Buenos Aires de Raíz」(2008年、MP3版2012年)
2008年に発売されたらしいです。いままでにdiskunionやHMVなどのwebショップで売っていて何度か注文したのですが、待てど暮らせど納品されない。いつの間にか廃盤。そうなると更に聞きたくなってきます。つい最近、Calros Moscardiniについてネット検索して知ったのですが、なんとAmazonではMP3版が¥1,500で手に入るという。便利な世の中ですね。勿論、即ダウンロード購入しました。「Buenos Aires de Raíz」直訳すると「根っ子のブエノス・アイレス」ですが、「我が心のブエノス・アイレス」という感じでしょうか。先に紹介した2008年録音/2009年発売の「Horizonte Infinito」と製作時期が近いためもあると思いますが、14曲中、8曲同じ曲を収録しています(別演奏)。その内の6曲はアルゼンチン・パンパでの生活を描くイラストレーター”Eleodoro Marenco”と”Florencio Molina Campos”の二人に捧げた小組曲です。14曲すべての曲タイトルにはmilongaやgato、malamboなどアルゼンチン・フォルクローレの様式が添えられていて、実に「我が心のブエノス・アイレス」への敬意を感じます。「Horizonte Infinito」には収録されていない、candombeのリズムが小気味好い「Duendes Mulatos」(魅惑のムラート*)(*黒人と白人の混血)や、叙情的なvals「Raíces Ocultas」(隠された根~秘められた心)のようなとても素敵な曲が納められています。手軽に入手可能なので是非聞いてみてください。
Serie dedicata a “Florencio Molina Campos”
01. Payada de Contrapunto (cifra)
02. Despuntando el Vicio (milonga)
03. El Gato (gato)
04. Horizonte Infinito (milonga)
05. Duendes Mulatos (candombe)
06. Raíces Ocultas (vals)
Serie dedicada a “Eleodoro Marenco”
07. Al Caer la Tarde (triunfo)
08. El Viejo Estilo (estilo)
09. El Arreo (malambo)
10. Adiós a los Cien Cuervos (milonga)
11. La Búsqueda (milonga)
12. Huella Perdida (huella)
13. Loca Milonga (milonga)
14. A Esas Almas (cancion)